人と話すのがとても苦手
対人関係が苦手で窓口業務が苦痛に…
 吉田課長が部下の渡辺さんのことで相談に来ました。元気がなく、職場になじまない。時々フッと休む。どうやって職場になじませたらいいか、という相談でした。
 渡辺さんは二十三歳、小柄でひ弱な男性。今年就職した新人で窓口業務を担当しています。
 直接の上司は渡辺さんと対照的なタイプの係長。人好きで自信家。大声で話す五十代のベテラン係長です。
 係長にしてみれば渡辺さんの接遇態度はどうにも我慢出来なかったようです。窓口でも下を向いてモゾモゾ話すので「ちゃんと相手の目を見て話しなさい」と注意したそうです。課長の勧めで来室した渡辺さんの話は次のようなものでした。
「人と話をするのがとても苦手なんです。係長から注意されたので窓口に来た方の目をちゃんと見て対応しようと努力しました。しかし、それを意識すればする程、とてもぎこちなくなってしまいました。頭に血がのぼって自分が何を話しているかわからないような気分になることもありました。朝出勤するのがつらくなったんです。なんとか頑張って出勤していたんですが。風邪をひいて寝込んだことをきっかけに職場に出られなくなりました。風邪は治ったんですが、それから一週間休んでしまいました」というものでした。
 
 
相手の目を見て会話などできるものではない
 
 対人関係の基本は二人の関係です。二人の人間が相対して話し合うことが出発点です。昔から「相手をちゃんと見て話せ」「目を見てはっきりした言葉で」「にこやかに」。いろいろ言われています。本当でしょうか。少なくとも相手の目を見て会話など出来るものではありません。
 同僚でも奥さんでもかまいません、相手をみつけ実験してみませんか。相手が見つかったらまず役割分担をします。さあ、きちんと面と向かって座ります。見る役の人はまず相手の額に視線をあわせます。三十秒程額を見つめて下さい。どんな感じがしましたか。次に視線を相手の目に合わせて下さい。これも三十秒くらい見つめてみて下さい。次に鼻の頭に視線を合わせて下さい。これも三十秒です。最後にあごに視線を合わせて三十秒です。どうですか。同じ三十秒でも大分違ったでしょう。どう違うか自分なりに感じとって下さい。照れ隠しに話しかけたりしない方がよいでしょう。あごが終わったら見る役と見られる役を交代してください。両方の役を体験したら相手と部位ごとに、どんな感じで見ていたか、見られた方はどんな感じを受けたか話しあってみて下さい。
 人と人が会話をする時間は三十秒より長いのが普通です。いかがですか、目と目を見合わせて話し合えると思いますか。相手に知られたくないことがあり、それを相手に悟られないように注意している人は、相手の目をじっと見るかもしれません。しかし、普通は恋人同士の関係くらいが目と目を合わせて話し合えるのではないでしょうか。窓口業務で相手と視線を合わせたまま対応することはとても難しいことでしょう。
 
視線を相手の鼻の頭かその下ぐらいに合わせると良い
 
 人により印象は多少違うかもしれませんが、鼻の頭か唇あたりに視線を合わせると、見る方もそう緊張しなくてすみ楽ですし、見られる方も顔をちゃんと見てくれていると感じるようです。
 つまり、会話をする時は視線を相手の鼻の頭かその下ぐらいに合わせると良いでしょう。そして話のポイントにさしかかった時、ほんの数秒間視線を相手の目にあわせるのです。相手は誠意を持って対応してくれた、話をちゃんと聞いてくれたと思ってくれることでしょう。
 対人関係の少ない職場を希望する職員のなかに、どこに視線を合わせてよいか知らないため苦手意識を持ってしまっている人がけっこういるようです。
 最近、渡辺さんは視線に気を使わなくなっただけ以前より窓口業務が苦痛ではなくなったそうです。些細なことがきっかけとなり対人関係がぎこちなくなる場合も多いようです。