対人関係は相手との距離を知ることから
人にはそれぞれ安心できる空間がある
 満員のバスに乗り、他の乗客と肌が触れあう不快さは何とも形容しがたいものがあります。人は自分の近くに見ず知らずの人が居ることに不安を感じるようです。ガラガラのバスに乗る時、他の乗客となるべく距離をおいた席に座るのも自分の安全な空間を確保するためなのです。
 人にはそれぞれ自分が安心していられる空間があるといわれています。その空間が大きいか小さいかは、個人によってかなり違うようです。その空間を「テリトリー(なわばり)空間」と呼びます。人によっては、一メートル以内に他人が近づいてくると不安になる人もいれば、三十センチでも平気な人もいます。自分のテリトリー空間がどのくらいか、チェックしておくのも重要なことだと思います。知らない人が近づいてきた時、どのくらいの距離で気持ちが落ち着かなくなるか確認して下さい。気持ちがザワザワしてくるような変化がおこるところが、テリトリー空間の境目です。
 対人関係を考えるスタートは、このテリトリー空間を知ることだと思います。自分と相手のテリトリー空間を知ることが出来ればスムーズな人間関係をつくるスタートがきれるでしょう。仮にAさんのテリトリー空間が一メートルで、Bさんのが五十センチだったとしましょう。相手に対する配慮をせず、Bさんが自分の安全距離内だからと六十センチに近づいてAさんに話しかけたらどうでしょう。構えた態度や警戒的態度をとり、打ち解けた態度で話を聞いてくれなくなるでしょう。逆に自分のテリトリーは一メートルだからと、Aさんが一メートル以上離れてBさんに話しかけたら、Bさんは距離があるので空々しく、Aさんに親密な印象を感じられず、これもぎこちない関係となるかもしれません。
 
 
状況によって距離感も変わる
 
 テリトリー空間は状況によって変化するものです。初対面の人に対して一メートルだったAさんも恋人に対しては0センチかもしれません。エドワード・ホールはこれが「四つの距離帯」に分けられると報告しています。さらにそれが近接相と遠方相をもっているので、実際には八つの距離帯になります。彼の距離帯(ゾーン)を簡単に紹介しておきましょう。
 
 1密接距離帯
 とても密接な関係の距離です。さして親密でない人が不作法にこの密接距離の範囲に入ってくると、生理的な不安感を感じます。近接相は身体的接触の距離、つまり0インチです。遠方相は六〜十八インチ、手で相手の手に触れたり握ったりすることができる距離です。
 
 2個体距離帯
 友人関係などの距離です。近接相は一・五〜二・五フィート、相手を抱いたりつかまえたりできる距離です。遠方相は二・五〜四フィート、個人的な論議をすることができる距離です。
 
 3社会的距離帯
 社会生活上の距離です。近接相は四〜七フィート、ちょっとした社交上の集いに出ている人の距離です。遠方相は七〜十二フィート、上司と部下の距離などです。
 
 4公衆距離帯
 講演会に参加するなど公的な機会に利用する距離です。近接相は十二〜二十五フィート。遠方相は二十五フィート以上です。
 
付き合いとともに距離をつめる
 
 人間関係を考える上でこの距離帯が大切なポイントです。初対面やまだ関係ができていない場合、相手の距離帯に注意すること、テリトリーの境目の距離を保つことが重要です。付き合いが深くなるに従って、距離をつめてゆくのです。相手との距離が短くなるにつれ親密度がますはずです。かといって限界以上に踏み込みすぎないよう注意してください。恋人、友人、職場の同僚、それぞれの関係によって距離も違います。同僚の関係と思っていた人が恋人の距離に入ってきたら不快感を感じるものです。自分と他人の「距離帯」に充分注意し理解して下さい。